Nihon Cyber Defence

日本における戦略的サイバー脅威インテリジェンス機能の統合

金融機関、製造業、重要インフラ分野のリーダーに向けた知見

Business leader analysing cyber threat intelligence data visualisation on large digital display in cyber security operations centre, Japan.
CTIの統合により、セキュリティ運用のレジリエンス強化とコンプライアンス対応、プロアクティブな防御を実現。

日本企業におけるCTI統合への戦略的アプローチ

サイバー脅威が進化を続ける中、金融、製造、重要インフラ企業のリーダーには、戦略的なセキュリティ対策が求められています。こうした状況で、サイバー脅威インテリジェンス(CTI)は、リスク軽減、規制遵守、運用レジリエンスの強化において重要な役割を果たしています。

しかしながら、既存のセキュリティ運用にCTI機能を効果的に組み込むことは簡単ではありません。特に、日本におけるリソースの制約や変化し続ける規制環境を考慮すると、多くの課題があるのが現状です。

日本サイバーディフェンス(NCD)では、これまで多くの企業と連携し、サイバーレジリエンスの強化を支援してきました。これまでの経験に基づき、CTIを効果的に統合するための重要なポイントや、現場でよく直面する課題への具体的な対応策をご紹介します。

CTIがビジネスのレジリエンスに果たす役割

CTIは、企業のセキュリティ成熟度を高め、事業を継続していく上で欠かせない存在です。

具体的には、以下のような効果があります:

  • 脅威の早期発見:サイバーリスクをいち早く見つけ出し、先手を打った対応が可能になります。
  • ブランドの保護: 詐欺やさまざまなデジタル脅威から企業のブランド価値を守ります。
  • 規制遵守の支援:サイバーセキュリティ関連の規制に対応できるよう支援を行います。
  • 日本に特化したインテリジェンス:国家の安全保障にも関わる日本独自の脅威情報を提供し、より的確な対策を実現します。

日本のサイバー脅威の現状

また、近年では、日本の航空業界、金融機関、重要インフラを狙った大規模なサイバー攻撃が相次いでいます。

  • 三菱UFJ銀行(2024年末~2025年初頭):オンラインバンキングサービスが攻撃により一時停止し、金融インフラの脆弱性への懸念が高まりました。
  • 日本航空(2024年12月):DDoS攻撃により国内線24便の遅延が発生しました。
  • 重要分野へのDDoS攻撃(2024年):ロシア系ハッカー集団が、物流、造船、政治分野を標的にした攻撃を仕掛けました。
  • MirrorFaceによるサイバー諜報活動(2019年以降継続中):中国系アクターグループが、日本の政府機関や企業、学術機関を標的に諜報活動を行っています。

CTIを社内に統合する際の5つの主要な課題と対応策

1. 人材不足

日本ではサイバーセキュリティの人材不足が顕著です。特にCTI分野に精通した人材の確保が難しい状況です。
対応策:既存のセキュリティチームのスキルアップを図るとともに、信頼できるCTI専門企業とパートナーシップを締結し、必要な知見やリソースを補完します。

2. インテリジェンスの有効活用

多くのセキュリティチームには大量のデータソースがあるものの、それを即時性のあるインテリジェンスとして活用する体制が十分に整っていません。

対応策:脅威インテリジェンス・プラットフォーム(TIP)やコレクション管理フレームワーク(CMF)を導入し、情報の整理と活用を効率化して、対応力を高めます。

3. 運用への統合

CTIの知見は、日々のセキュリティ運用に組み込む必要があります。SOC、詐欺対策チーム、リスク管理部門などとの連携が不十分な場合、CTIの効果は最大限に発揮できません。

対応策:インテリジェンス要件を明確化し、部門横断の連携体制を構築することで、戦略的な意思決定と迅速な対応につなげます。

4. 予算制約とROIの確保

CTI専任チームを構築するには、人材確保、情報ソースの購読、調査ツールの導入など、多大なコストがかかります。

対応策:既存のセキュリティ機能をCTIに組み込む「ハイブリッド型」を採用し、外部の専門知見と組み合わせることにで、コストを抑えつつ柔軟にチームの規模や能力を拡充します。

5. 規制・主権・倫理的配慮

CTI活動では、日本の個人情報保護法(APPI)をはじめとする国内法令を遵守し、日本の安全保障にも配慮する必要があります。特に、海外からのインテリジェンスへの過度な依存は、主権リスクを招く可能性があります。

対応策:国内のCTIプロバイダーと連携し、法令遵守やデータ主権を確保しながら、国家的利益と整合する形で運用します。

能動的サイバー防御CTIの要件やコンプライアンス対応にどのような影響を与えているのかについては、こちらの記事をご覧ください。

なぜ日本企業は国内CTIプロバイダーを選ぶのか

多くの企業は、「ハイブリッド型」の戦略を採用しています。これは、企業のコアとなるインテリジェンス機能を社内で維持しつつ、専門性が求められるインテリジェンスやダークウェブ監視、地政学的リスク分析などの領域については、外部のCTIプロバイダーと連携するというアプローチです。

実際、CTIチームを社内で構築するのではなく、NCDのような日本国内のCTI専門企業とパートナーシップを結ぶ企業が増えています。ハイブリッド型CTIを導入することで、インテリジェンス活用までのリードタイムを短縮し、規制対応との整合性を確保しながら、運用負荷を軽減することが可能になります。

CTI機能の強化に向けたパートナーシップについては、こちらの記事をご覧ください

サイバー・レジリエンスの強化に向けて:リーダーシップの視点

サイバーリスクの規模と複雑性が増す中で、企業のリーダーは「インテリジェンス主導」かつ柔軟なセキュリティ戦略の推進が求められています。

特に経営層が検討すべきポイントは以下のとおりです:

  • 現在のセキュリティ運用に、CTIを効果的に統合できているか。
  • CTIを活用して、ビジネスリスクを事前に軽減できているか。
  • インテリジェンスの情報源が、日本の国家安全保障の方針と整合しているか。
  • 外部のCTIプロバイダーとの連携で、セキュリティ成果とコスト効率の両立ができているか。

NCDでは、企業のビジネス目標や規制要件に合致した、体系的でインテリジェンス主導のセキュリティ戦略の構築を支援しています。

社内チームの強化を検討している場合や、ハイブリッド型CTIの導入をご検討の場合には、日本市場に特化したCTIの専門知識を提供し、レジリエンス強化と主権の保護をサポートいたします。

CTIの統合や全体的なサイバーセキュリティ戦略の強化については、ぜひNCDまでご相談ください。お問い合わせはこちら お問い合わせ先

Kenichi-Terashita
寺下健一

日本サイバーディフェンス チーフスレットインテリジェンスオフィサー

セキュリティ分野で20年以上の経験を持つエンジニア兼コンサルタントとして、世界的なサイバー脅威の分析を専門とするチームを率いている。

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サイバー成熟度評価 ​

日本サイバーディフェンス(NCD)では、組織のサイバーセキュリティ能力を包括的に診断する「サイバー成熟度評価サービス」を提供しています。このサービスは、現状の課題や強みを明確化し、組織が直面するリスクに対して最適な対策を講じるための土台を築くものです。さらに、全体的なセキュリティ態勢を強化するための戦略的なロードマップをご提案し、実効性のある改善計画をサポートします。

サイバーセキュリティフレームワーク(NIST)

国立標準技術研究所

サイバー評価フレームワーク(CAF)

国家サイバーセキュリティセンター

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