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金銭的影響を超えて:サイバー攻撃の真の代償

相互依存のデジタル社会:サイバー攻撃による金銭的損害と現実世界への影響

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Beyond Dollars: The True Impact of Cyber Attacks

Microlise社がサイバー攻撃を受けたことが証券取引所に報告され、注目を集めました。サイバー保険へ加入していたために大きな金銭的損失はない、との報告内容でしたが、サイバー攻撃やシステム障害が実際に現場に与えた影響については触れられていませんでした。しかしその後、Microlise社が、英国内の受刑者移送業務において受刑者や刑務官に対する追跡装置やパニックアラームなどのセキュリティシステムをSerco社に提供していることが明らかになりました(Serco社も最近サイバー攻撃を受けています)。

同社のセキュリティシステムが機能停止に陥り、移送業務や刑務官が危険に晒されました。この事例は、我々がいかにテクノロジーに依存しているかを改めて浮き彫りにすると同時に、サイバー攻撃が現実社会与える影響がしばしば過小評価されていることを示す一例と言えるでしょう。

現代では、世界中と繋がる環境の中で、サイバーリスクが至る所に存在し、あらゆる組織に脅威を及ぼしています。多くの場合、金銭的損失が注目されがちですが、実際にはそれ以上に深刻な影響をもたらすことも少なくありません。

本ブログでは、サイバーリスクにおける金銭的影響と現実的影響という、対照的かつ密接に関連する側面について議論していきます。

金銭的影響

サイバー攻撃による経済的損失は非常に大きく、直接的費用、間接的費用、さらには長期的経済損失にまで影響が及びます:

  1. 身代金支払いや恐喝対応コスト
    ランサムウェア攻撃では、企業がデータ復旧や情報漏えい防止のため多額の支払いを強いられることが一般的です。実際に、NTTドコモやMicrolise社などがこうした要求を受けました。緊急費用の一部は保険でカバーできますが、早期解決には追加の対策が求められます。
  2. 法令や規制違反に伴う罰金
    データ保護規制の違反は、高額の罰金を招く可能性があります。EUの一般データ保護規則(GDPR)など、各国は個人データ保護に関する厳しい罰則を定め、違反企業に重大な経済的負担を課しています。
  3. インシデント対応と復旧コスト
    サイバー攻撃を受けた組織は、フォレンジック調査、封じ込め、復旧措置に多額を投じる必要があります。セキュリティの専門家を雇い、強化策導入の対策が求められます。
  4. 事業中断とダウンタイム
    サイバー攻撃により業務が一時停止し、ダウンタイムの発生で収益損失や生産性の低下を引き起こす可能性があります。
  5. レピュテーション低下と顧客喪失
    顧客の信頼が損なわれ、ビジネス機会の減少につながることもあります。ソニーやSerco社などの企業は大規模攻撃後、評判の回復に時間がかかりました。 

実際的影響

サイバー攻撃は、金銭的な被害にとどまらず、個人やコミュニティ、さらには国家安全保障にまで深刻な実際的影響を及ぼす可能性があります:

  1. 機微情報の漏えい
    個人情報や機密データが流出すると、なりすましや金融詐欺などの被害が発生し、長期にわたりプライバシー保護に対する懸念が続きます。
  2. 重要インフラの障害
    医療、交通、エネルギーなどの重要サービスへの攻撃は広範な障害を引き起こし、公共の安全を脅かします。JAXAをはじめとしたインフラへの攻撃は、こうした分野の脆弱性を浮き彫りにしています。
  3. 心理的影響
    サイバー攻撃により、従業員や顧客は強い不安やストレスを感じ、それが長期的な心理的負担となり、士気や生産性の低下を引き起こします。
  4. 国家安全保障への脅威
    政府機関や防衛関連企業を標的とするサイバー攻撃は、国家の安全保障を直接的に脅かし、地政学的な緊張や戦略的な脆弱性の露呈に繋がります。
  5. サプライチェーンの混乱
    デンソーや三菱重工業が経験したように、サプライチェーンパートナーへの攻撃は、生産・配送プロセス全体に波及し、複数の組織や産業に影響を与える可能性があります。

予防、軽減、対応のバランス

これまでに述べたリスクを軽減するには、金銭的影響と実際的影響の両方に対応した包括的サイバーセキュリティ戦略の導入が不可欠です。具体的には、強固なサイバーセキュリティインフラへの投資、定期的なセキュリティ監査、従業員へのサイバーリスク教育、インシデント対応計画の策定、そして迅速に対応できる専門家の確保が求められます。

また、単なる技術的な対策にとどまらず、技術的・非技術的影響の軽減と、最適な解決策を見出すための包括的なインシデント管理プログラムの構築も重要です。

まとめ

サイバー攻撃による金銭的影響は数値化されやすい一方で、現実に及ぼす影響は広範かつ複雑です。サイバーリスクが組織や社会に与える多面的な脅威から守るため、包括的なサイバーセキュリティ対策が不可欠です。

インシデント対応における5つの対応策

NCDが提供する包括的な対応策では、技術的対応、状況の緩和、規制対応や告知・メディア対応、脅威者の調査および特定の各側面から同時並行で問題解決にあたります。

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ドゥーギー・グラント

日本サイバーディフェンス 執行役員兼グローバルインシデント管理責任者

ドゥーギー・グラント

日本サイバーディフェンス 執行役員兼グローバルインシデント管理責任者
英国警察および国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)での30年の経験を活かし、グラント氏はNCD社のサイバーインシデント管理と対応を国際規模で牽引しています。
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